百福 

南青山

水谷渉さん

水谷渉さんの工房は、唐津の相知にある粘土工場。
その広い空間の中に、仕事場と窯場が一体となって存在している不思議なところです。
スギ花粉の舞う2025年の3月某日、その工房にお邪魔しました。


水谷渉さんの作品に出会ったのは、数年前の有田の陶器市。
暑い日で、ビール片手に陶器市をぶらぶらしていたら、目に飛び込んできた三島手の皿。
なんとも絶妙にいい感じで。
そこに並んでいた、唐津も、刷毛目も、ぜんぶ、よくて。
ふらふらと、どこか脱力していて、ひゃぁぁ、なんてかっこいいんだ!
って一目惚れでした。

その時店番をしていたのは水谷さんの奥様。
どきどき期待しながら「これはあなたがつくっているのですか?」と尋ねたら、
もうひとつの会場で店番をしてるご主人が作っているというので、
そちらに伺いました。

もうひとつの会場といわれた場所にいくと、そこに並んでいてたのは、
土の塊というか、茶盌のようなものだったり、壺のようなものだったり、皿的なものだったり。
一見現代アートなのだろうか?と思える、様々な色合いのパンチの効いたものたち。
それと、三島や唐津の器。

ん?これ、と、これ、を作っているのは同じ人なんだろうか????
え?同じ人が作ってるのかな?
それとも二人の作品が置いてあるのかな?
会場をシェアしているのかな?
と、店内をうろうろ、何周もしてしまった。

が、そこにいたのは一人。
静かに、存在を消して、椅子に座っていた。

この人が作っている人なのだろうか?
声を、かけて、いいのだろうか・・・・・

勇気を出して声をかけてみた。
「あの、この三島の器をつくっている方ですか?」

その人は、小さく「はい」と言った。
「あちらも?」
「はい」

それから、何かいろいろ、お聞きしたのだけれど、
とにかく口数が少ない方で。

訪ねる前に奥様が「しゃべらない人なので」おっしゃっていて、
そうなのかー、と思っていたけれど、
まさか、こんなに寡黙だとは!と笑ってしまった。

そこから、何回かお会いして、今年個展をしていただくことになり、打ち合わせで工房にお伺いしたのでした。

水谷さんの工房は、工房というより、正に工場のような大きな空間で、
粘土を生成する機械と、水谷さんが作った夥しい数の作品と、
穴窯とが共存するところでした。
なんて、独特な空間なのだろうか。

そこで、お話しを少し、聞かせていただきましたが、
多くを語らない水谷さんです。
語らない変わりに、そこに並んだ作品たちが、存在を主張していました。

水谷さんは、愛知県出身。陶芸家のご両親のもと、中学生から陶芸に携わってきた。
若い頃には野村淳二氏、中川自然坊氏、鯉江良二氏に師事。
その後に、飛騨高山に工房を構えたり、松江に工房を構えたりしたのち、
唐津の、今の場所に来た。

そして、唐津で土を掘り、唐津の焼き物をしているのだが、
それは唐津のようでいて唐津でなく、
唐津の土が、形になってあらわれた、というようなものなのだった。

こう、なんだろう。
ちょっと、漫画ちっく。
漫画で陶芸作品を描くと、こう描きたい漫画家がいそう。

そういう作品がゴロゴロと存在する工房だった。

工房の片隅に、掘り出されてきたであろう土の塊が積まれ、
粘土を生成する機械がうなりをあげ、土が粘土へと姿を変えていた。
工房のでは奥には穴窯が、ひっそりと佇んでいた。

ここは、水谷さんの頭の中そのものなのだな、と思った。
その場全体が、土から手、そして炎へという、循環をしている。

水谷さんは多くを語らない。
だが、そこに並ぶ作品は、雄弁に語っていた。
土の声をきき、形にして、炎に委ねた、と。

10月4日(土)からの「水谷渉展」には、その土の声が聞こえる作品が並びます。
気を衒ったものではない。
けれども凡庸ではなく、見たことのないかたちで土が立ち上がっている

そんな作品に出会える展示になると思います。
ぜひ、いらしてください。


Oct 4 sat-10 fri
Wataru Mizutani solo Exchibition

Wataru Mizutani is a ceramic artist based in Karatsu,
firing pieces in a wood-fired kiln using clay he digs himself.
He has been immersed in ceramics since his early teens,
studying under Jinenbo Nakagawa in his youth and Ryoji Koie in his twenties.
Moving from Hida to Matsue and finally to Karatsu,
he has long explored the dialogue between earth and place.
Day after day, he works with soil and flame,
yet he rarely speaks of what lies within.

This exhibition presents works that transcend
the techniques of Karatsu, Mishima, and Hakeme,
inviting you to sense the voice of the clay itself.
Each piece speaks eloquently of the memories of earth and fire.

唐津に工房を構え、自ら採った土を薪窯で焼き上げる陶芸家・水谷渉氏。
中学生の頃から陶芸に親しみ、10代で中川自然坊氏、20代で鯉江良二氏に師事。
その後、飛騨、松江、唐津と工房を移しながら、土と風土に向き合ってきた。
土を掘り、炎に委ねる日々。その内側で何が起きているのか、彼は語らない。
本展では、唐津、三島、刷毛目といった技法を超え、
「土そのもの」の声が聞こえる器が並びます。
器が雄弁に語る、土と炎の記憶を、ぜひご高覧ください。

水谷渉展 (陶)
2025年10月4日(土)-10日(金)
会期中無休
営業時間 12時~18時
最終日17時まで


百福
〒107-0062
東京都港区南青山2-11-6 1F
momofuku@momofuku.jp
Open 12:00 – 18:00
不定休
お問い合せはお電話・メールでお気軽にどうぞ。

・地下鉄銀座線 外苑前駅 4a出口 徒歩5分
・地下鉄銀座線 半蔵門線 大江戸線 青山一丁目駅 5番出口 徒歩5分
※専用駐車場はございません。
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